確かにザックは攻撃的なサッカーを目指し、本大会前にはオランダやベルギー相手に打ち合いを演じた。しかし本番、日本を警戒し研究し尽くしてきた相手に呆気なく敗れてしまったのである。
初戦は攻撃が機能するどころか殆ど前線が噛み合わず守備面のごたつきから同じ形で2失点。第二戦はガチガチに引いた一人少ない大男達を左右に揺さぶろうと試みるも、日本を分析し尽した彼らは全く動じず。試合中の軌道修正を試みるのも一部の選手に留まり無得点に終わった。日本のGL突破確率が5%弱と見積もられて迎えた第三戦はメンバー8人を代えてきたコロンビアに対して、序盤は悪くないテンポで進行した。しかし攻撃に重点を置いたことで生まれたスペースから突破されPKを献上。一時は同点に追いつくものの、結果を見れば主力を出された後半に3点奪われ4-1の大敗を喫した。
この3戦で「ポゼッションで圧倒し緻密なパスで崩す攻撃的なサッカー」はできたのだろうか。ポゼッションとパスという点で言えばコートジボワール戦は×、ギリシャ戦とコロンビア戦は○。しかし勿論それはあくまで数字上の話だ。ギリシャ戦は「攻撃的なサッカー」を展開するも相手の対策と守備陣の固さを攻略できず90分が過ぎ、コロンビア戦では逆にその弱点を突かれやられてしまう屈辱を味わった。どの試合でも「崩す」という部分については達成できなかった。
ではどうすれば理想のサッカーで勝てたのか。上述のように個の力だけに頼るのは難しい。日本は4年前のスペインのように、素早いパス交換と動きだしでボールを保持し続けて相手に攻撃する間を与えない試合運びを目指していたのかもしれないが、現時点での目標としてそれがいかに現実離れしたものかは痛感させられた。お手本のスペインでさえ攻撃は抑えられ守備面の綻びを突かれて惨敗してしまったことを考えると、上記の策でW杯を勝ち切る難しさが良くわかる。
一般的に攻撃よりも守備の方が戦術でどうにかなる可能性が高いと言われる。そして守備面に重点を置き、徹底すれば強いチームにも勝てる。日本は4年前にそのことを証明したし、本大会でもコスタリカが5バックと前線からの守備を上手く組み合わせ、結果としてボールを保持して相手を打ち破ることに成功している。戦術を浸透させるのに使える時間が十分にないW杯となれば守備の重要さは尚のことである。オランダでさえスペインを打ち破るために5バックを選択した。それを分かった上で、日本は信念を貫くようだ。原専務理事がW杯敗退後「4年間のやり方を継続すべき。モウリーニョみたいに勝てばいいというサッカーをする監督は呼ばない」と語ったことがその裏返しである。
では今大会、圧倒的な「個」に頼らずパスで崩す攻撃的な試合運びを展開しているのはどのチームだろうか。タレントを要していることには変わりはないが、組織的なパスサッカーで崩すという意味ではドイツがそれに当たるかもしれない。だがドイツはタレントを抱えている以上に「バイエルン化」が可能という利点を持っている。アメリカ戦のスターティングメンバ―は実に6選手がバイエルン所属であった。戦術浸透にかける時間が少ない代表チームにおいて常に同じクラブでプレーする彼らを基軸とできるのは大きなアドバンテージだ。この点もまた日本は真似できない。理由については説明の必要もないだろう。
【次項】”ではどうすれば…。残された選択肢は2つ。”