【クロップ戦術】ゲーゲンプレスとは〜近代サッカーの3つのモデルとリバプールの可能性〜

クロップの戦術において極めて重要な役割を担う「ゲーゲンプレス」。(別名カウンタープレス)

ゲーゲンプレスはミドルサードで相手にボールを奪われた直後にスイッチを入れ、数秒以内にボールを奪い返しショートカウンターに転じることを前提にデザインされた動き方のことを言う。

 

ゲーゲンプレスという言葉はクロップがドルトムントでの成功を収めたことで全世界に広がったが、広義には70年代から使われていた戦術で、現在も様々なチームで部分的に採用されている。クロップ自身もバルセロナの守備の部分を参考にし独自のモデルを構築したと語っている。

本記事では改めて、ゲーゲンプレスが具体的にどの様なもので、どのような効果とリスクを含むのか、そしてゲーゲンプレスを軸として戦うクロップリバプールについて以下の流れで考察する。

・ゲーゲンプレスの基本モデル
・ゲーゲンプレスにおける重要なポイント
・クロップリバプールの可能性

 

■ゲーゲンプレスの基本モデル

ドイツの戦術分析サイトspielverlagerung.comに掲載されているRene Maric氏の記事ではゲーゲンプレスのパターンが4つ紹介されている。以下の図については上記サイトからの引用となるため、詳細については是非同サイトを確認して欲しい。

一つはオランダ代表やアヤックスが70年代に採用していたモデル。ポジションのバランスは完全に無視して全員がボールホルダーにプレッシャーをかけ続ける。

動画をご覧いただくとよくお分りになるかと思うが、ボールを奪える確率は高いが一歩間違えれば相手に決定機を与え続けることにもなる諸刃の劔とも言えるモデルである。

このモデルの良い部分をできるだけ残し、その上で逆襲を喰らうリスクを極限まで減らすことを目指し近代サッカーではいくつかのモデルが生み出された様だ。上述した記事内で紹介されている残り3つのモデルがそれに当たるのだが、筆者の見解も交えつつ、できるだけ噛み砕いた形で以下にまとめていく。

−マンマーク型ゲーゲンプレス−

近代のモデル1つ目はハインケスがバイエルンで使ったとされているのは「マンマーク型」のゲーゲンプレス。ボールが奪われた瞬間に近くの選手が即座にボールホルダーにプレッシャーをかけて自由を奪う。周囲の相手選手はサポートに近寄るが、同時に以下の図の様に各選手がマンマークで相手につく。ボールホルダーはプレッシャーを浴びるが複数人に囲まれるわけではないのでパスを出すことはできるが、その先で各マーカーがパスの受け手を潰しに行きボールを奪い返すことを狙う。

このモデルは70年代のモデルとは異なり、バランスをとりつつプレッシャーをかけるのでゲーゲンプレスを外して大きなピンチを招くリスクを一定に抑えることがでいる。もちろん、リスクを取らない分相手からボールを奪い切れる可能性が格段に高いわけではないが、ファーストディフェンダーが的確にパスコースを限定しつつ後続が続けば逆襲に転じることがでいる。他方、一対一になった時に負けないことを前提に作られているモデルなので、どこかのポジションでミスマッチが起きると成立しない。いかにも、バイエルンであれば自国のリーグ内ではほとんどその様なことはないので安心である。

 

−スペース潰し型ゲーゲンプレス−

2つ目はクロップがドルトムントで使ったとされる、ボールホルダーのスペース、別の言い方をすると猶予を削り取るモデル。クロップはリバプールでも基本型はこのモデルを採用している。ハインケスのモデルは1対1の状況を作り出すのに対して、こちらはマークを捨ててボールホルダーに複数の選手がプレッシャーをかける。ボールホルダーに多方面から激しいプレッシャーを浴びせるためミスを誘発してボールを奪取するか、クリアに近いロングボールを蹴らせる展開になりやすい。

他方、数人が持ち場を離れてボールホルダーにプレッシャーをかけるため、ゲーゲンプレスが空振りに終わると数的不利の展開で守備をせざるを得なくなる。詳しくは後述するが、最もチームの連携と運動量が重要なモデルである。

−パスカット型ゲーゲンプレス−

3つ目はグラウディオラがバルセロナで採用したとされてる「パスカット型」のモデル。このモデルではボールホルダーやパスの受け手を狙うのではなくパスカットを狙う。ボールを奪われると各選手が即座に2つのパスコースを想定した位置取りをする。ボールホルダーには一定の自由を与えてショートパスを出すことを許すが、そのパス自体をカットし逆襲に転じることを目指す。

ハインケスが採用したモデルと同様、ゲーゲンプレスが空振りに終わった際に数的不利な状況に陥るリスクが少ない。また、的確なポジショニングにより相手のショートパスをカットすることを前提とするので、メッシが常に激しいプレッシャーをかける必要もない。ボールホルダーに最も猶予を与えるモデルであるため、ボールを奪った勢いそのままにハイスピードな攻撃に転じることは難しいが、パス回しからの攻撃を得意とするバルセロナには適切なモデルと言える。

上記がゲーゲンプレスの基本モデルである。実際には各監督ともに部分的にそれぞれのモデルを組み合わせて使っていることが多い。では、どうすればゲーゲンプレスを成立させることができるのだろうか。

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