■弱みその1(攻撃):中盤でのポゼッションが困難
4バックの布陣であれば2CBの前にボランチが入りパスの供給役となれるが、3-5-2だと中盤の枚数で相手が上回るためゆっくりパスを回そうにも早々に潰されてしまう。そのため攻撃ははサイドから崩すか、1つ飛ばしてFWに当てて速攻、もしくはロングボールを蹴り込んででこぼれ球を狙うといった形になりやすい。すなはち、上記の布陣は中盤で素早のパス交換を武器にポゼッションで相手を圧倒しようとするチームには向かない。チリは、前線からのプレスとロングボールによる速攻を武器としているためこの弱みがチームの足を引っ張ることは少なかった。
<データ:チリのロングボール傾向>
チリのパスの長さの平均は20mと32チーム平均(19.4m)よりやや長め。ロングパスの割合を見ても、スペイン戦14.1%、ブラジル戦17.3%とそれぞれ相手チームの7.1%、13.2%を大きく上回っている。(オーストラリア戦は4バックを採用。)
■弱みその2(守備):CBの脇を突かれる
中盤の枚数の関係でサイドの守備はWB1人にかかる負担が大きい。その上、3人のCBは互いにカバーしあって中央を固める役割を負うため、相手に自陣深くの両脇を自由に使われやすい。相手FW2枚が中央に残る場合3CBは持ち場を離れられないため、その傾向はより顕著なものとなる。CBとWBが積極的に攻撃参加することで生まれる「強みその1」を活用することが、両脇のスペースの守備を緩めることにつながり弱点を突かれる引き金となることも。
例1 :グスタボの60m単独突破(ブラジルvsチリ)
自陣でボールを受けたグスタボにそのまま60m近くドリブルを許し、左サイドを抉られた場面。4バックであれば逆サイドのSBが中に絞ることでCB(
例2:フッキの裏へのロングボールで決定機
ブラジルの攻撃を最終ラインで防ぎCBが右前にボールをクリアした場面。それまでも攻撃の起点となっていた左WBのナメはチリボールとなった際のことを見越してふらふらとポジションを押し上げる。バルガスは巧みな体の使い方でキープを試みるも、ルイスが力技で奪い返しボールはマルセロルの元へ。この時点でフッキとGKの間には十分なスペース生まれている。中央のCB3枚はというと、フレッジとネイマールの2FWを見ているため不用意には動けない。それを察知したマルセロはすぐさまそのスペースにロングボールをフィード。ボールを受けたフッキはネットを揺らした。(その後、微妙なハンドの判定で得点は取り消し。)
【総括】
3バックは中盤でのパス回しには向かないが、サンチェスのようなキープ力に長けた前線の選手と、ロングボールのこぼれ球を取り切る運動量を兼ね備えたチームには極めて有効な策として機能した。さらにチリはサイドでできる数的優位の局面をも上手く活用しブラジルを相手にPK戦まで持ち込み、敗れはしたものの勝てなかったのが不思議なぐらいの試合運びをした。システムを上手に活用しチーム力を高めたわかりやすい一例である。W杯は各チーム練習時間が少ない中で戦うためサッカー界に与える戦術的な影響は限定的だとも言われるが、今大会の「トレンド」、3バックはその評価を吹き飛ばすほどのインパクトを残すことになるかもしれない。ベスト8に残る3バック使い、オランダとコスタリカの躍動に期待しよう。