「サッカーデータ革命」が示した10の事実。~真のポゼッション主義者はストーク・シティ~

クリス・アンダーセンとデイビッド・サマリーの共同著書であるTHE NUMBER GAME:Why Every Thing You Know About Football Is Wrong」の和訳版がついに2014年7月1日に出版された。タイトルはサッカー データ革命 ロングボールは時代遅れか本書は膨大な分析データを元にサッカーの真実を突き詰める大作であり、現代サッカーを語る上で知っておくべき要素がたくさん詰まっている。もしあなたが熱烈な欧州サッカーファンであるならば、リーグが開幕する前の一読を強くお勧めしたい。本記事では同書の中から切り取った10のストーリーを紹介する。これらはほんの一部でしかなく、調査の背景も省略されているため全容が気になる方は是非書を手にとって確認して欲しい。

1.サッカーにおける勝利の半分は幸運によるものである
勝利は本当に実力によるものなのかを問ういくつかの調査が示す答えは「50%は運によるもの」といったものだ。また運とゴールの関係についてのとある調査は、対象とした2500ゴールの内44%に幸運が含まれていることを明らかにしている。ただ、残りの50%は自分たちの手の中にあるということも忘れてはならない。

2.内戦とイエローカードには関係がある
調査結果によると選手の出身地の内戦の継続年数が上がるにつれ、その選手がイエローカードを受ける枚数も増えるという。1980年代から内紛が続いているコロンビアとイスラエル出身の選手ピッチ上でラフプレーが多い傾向にある。また民主主義が成立していなかったり、貧困状態であったりする国の選手にも同様のパターンが見られる。

3.選手が”乗っている”というのは錯覚
バスケでもサッカーでも連続してシュートを決めた選手は”乗っている”と言われ、選手自身だけでなく、ファン、チームメイトや相手選手までもがそれを信じている。しかし、データはそれが錯覚でしかないことを示している。実際には連続してシュートを決める確率は偶発的に生じるものと全く同じしかないのだ。

4.世間が言うほど、リーグごとの違いはない
私たちは国によってサッカーのスタイルが違うと教わってきたが、実際はパス、PK、CK、シュート、そしてゴールなどのサッカーの“本質”に関わる殆どの要素はプレミアでもセリエAでもリーガでも殆ど変らないことをデータは示している。セリエAのチームがユニフォームを変えてこっそりプレミアでプレーしていても、私たちはその異変に気づくことはないだろう。

5.「2点差が一番危険」なんてのは嘘
「何点目のゴールに最も価値があるか」を調べた分析によって、2点目に最も価値があることが分かっている。つまり2点目を奪うことは勝利が最も近づいたということを意味するのだ。先制点より2点目の方が重要だなんて馬鹿げていると思うかもしれないが、それが真実だ。私たちが長らく聞かされてきた「2点差は一番危険」だという教えはただの出鱈目だったようだ。

6.スター獲るより穴を埋めろ
数多くのビッグクラブはスペシャルな選手に多額の移籍金を費やす。しかし統計学的にはチームの最良選手の質を10%向上させることで得られる勝ち点は5ポイントであるのに対して、最悪の選手の質を10%向上させることは勝ち点9の価値がある。つまり、より効率的にチームを強化したいのであれば”チームの底上げ”が有効だ。

7.交代のタイミングが遅い監督は自ら勝点を落としている
調査結果によるとによるとチームが負けている時の交代のタイミングは58分、73分、79分がベストだという。例えばセリエAではこのルールに従わない場合は得点差を縮められる確率は18%なのに対し、従った場合は52%。「負けているのに何故早く交代枠を使わないんだ!」という主張は正しかったようだ。

8.元有名選手であった監督の方が良い成績を残す
「ジョッキーになるためには、かつて馬であった必要があるのか?」とサッキが言ったように、監督が名選手であった必要はなあという主張が通説となりつつあるが過去20年のデータはこれを否定している。結局、名選手の方が高い確率で監督としても優れた結果を残している。

9.監督交代は時に“偽薬”である
あるチームのパフォーマンスが本来の50%まで低下した段階で、新監督がやってくるとその4試合後には95%にまで回復するという。これだけを聞くと監督交代は最高の起爆剤であるように感じるが実はそうではない。同じように下降線を辿っているチームで監督交代をしなかったケースを対象に調査をしたところ、彼らもまたパフォーマンスが50%まで低下した試合を頂点にV字回復を遂げていたのだ。つまり、監督交代は万能薬という訳ではなく、コストのかかる偽薬である場合もあるのであるわ、

10.真のポゼッション主義者はストーク
サッカーでは1試合に約400回も攻守が入れ替わる少し変わったスポーツだ。アーセナルのようにポゼッションが戦術だと謳っているチームでさえ最大240回、平均で175回も相手にボールを奪われている。つまり、丸い球を、足で扱う競技で、ボールを支配しようなんてことは実質不可能なのである。(勿論この戦術は勝つために有効な策でもあるが。)加えて、1試合で選手がボールに触れている時間は平均53.4秒しかないし、ボールと一緒に移動する距離は僅か191メートル。選手たちは毎試合に11キロも走るが、ボールと共に移動するのはその1.5%だけだ。つまり実際に選手がボールを“保持”することは殆どない。その点1011シーズンのストークはうまくやっていた。ストークの試合ではすぐにボールが蹴り飛ばされてしまうためオンプレーの時間が平均58分52分、ある試合ではわずか45分と極端に少なく、また、彼らのポゼッション率の平均は39%しかなかった。それでもストークはそのシーズン、アーセナルを3-1で下しているし、リーグでは13位と健闘、FAカップでは準優勝を果たしている。つまり、ピューリス監督は真の意味での”ポゼッションサッカー”をチームに根付かせ成功を収めたのである。彼らは、ポゼッションが可能なのは試合が止まった時だけだと知っていたのだ。オンプレーの時は不確定要素が多すぎて強豪相手にボールをコントロールすることが困難であるが、セットプレーの時はいつもならどこへ転がるか分からない球を完全に支配し、ゆっくりと陣形を整え、タオルでふき、大砲を発射することさえも可能なのである。

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