楔のパスによってどんな効果が生まれるのか、サイドチェンジすると相手がどう動くのか、何故裏を取られたのか、一コマ一コマプレーを止めて考えさせる練習を重ねた弱小小学生チームが全国大会レベルまで勝ち上がったという話を聞いた。「今そのプレーを選択をした理由」を問い続けられた僅か10歳前後の少年達は、自分の頭でチームにとって最高となるポジショニングと動き方を考え、次のプレーを選択することができるようになり、強い敵を打ち負すことに成功したのだ。
「日本の課題は決定力不足」メディアはこう言い続けるが、恐らくこの課題は永遠に課題のままだ。FIFAのレポートによると日本のサッカー人口は2006年の段階で480万5千人、世界で11番目に多い。しかしドログバやロナウド、メッシは一向に現れない。強靭な肉体を持った南米やアフリカの選手たちに立ち向かうには「個」のレベルの上昇は確かに必要だが、現状から考えるとそこに日本のサッカーの未来を託すのではあまりに無策である。
しかし日本サッカー協会は「2050年までのW杯優勝」を目標に掲げている。その達成のためには世界の強豪チームに勝たなければならない。つまり日本は別の部分で彼らを勝る必要がある。日本の武器はなんだろうか。オシムはこの問いに、組織力に勤勉さ、献身性と答えている。言い換えると日本はチームの勝利のために皆で力を合わせて、一生懸命プレーすることができるのだ。ならそれを生かせばいい。無論、今回の代表チームも当然上記の特徴を発揮した。例えば走行距離を一つとってもキャンプ地選択などコンディショニングが上手く行かなかったと揶揄されながらも、コートジボワール、ギリシャ、コロンビアのそれを上回っている(FIFAデータ)。ただ、粘り強く頑張れば結果が出るほど甘くはない。個のポテンシャルで勝る相手に正面から突撃しても試合には勝てないのだ。
そこで必要となるのが戦術である。2010年のW杯では岡田監督が手段に拘らずに勝てる方法を考え、ドン引きの本田1トップという策でベスト16に進んだ。これは最も勝つ可能性の高い方法であり、最も分かりやすい戦い方だった。故に勤勉な選手たちは容易くプランを実行し強豪国を破ってみせた。W杯でベスト16。悪くない結果である。
だが、日本が目指したいのはどうやら「攻撃的なサッカーによる勝利」だったようだ。もう少し具体的に言うと「ポゼッションで圧倒し緻密なパスで崩すサッカー」だ。サッカーは相手より多く点を取って勝利を目指すスポーツだが、時に勝利する方法も重要になる。本田圭佑はあえて難しい戦い方を選択する理由をこう語った。「やはりこういうサッカーで勝たないと、見る人も魅了されないと思う。このスタンスで行くことが個々の選手の成長にも繋がる」と。
上記の目標達成のため、サッカー協会は南アフリカW杯の後ザッケローニ監督を招き入れた。そして、敗北した。
【次項】本大会前にはオランダやベルギー相手に打ち合いを演じた。しかし…