長年不安視されてきたリバプールのGKに安定感を齎すべく、クロップがマインツから獲得したドイツ人GKのロリス・カリウス。マインツでの彼のプレーを継続的に確認してきた人は多くはないはずだが、的確な補強により着実にチームの戦力を押し上げているクロップ陣営が抜擢した選手なだけにその期待も大きい。
Working at full throttle in today’s training! We’re back at Anfield on Saturday! ⚽️ #LFCvHCFC #YNWA #LK1 @lfc pic.twitter.com/QZ3ee8Ni8w
— Loris Karius (@LorisKarius) 2016年9月22日
負傷の影響でプレミアリーグ16/17シーズンの開幕に間に合わなかったカリウス。当初はファーストチョイスの座をミニョレと争わせるという話も出ていたが、ベルギーGKが随所に見せる危なっかしい対応もあってか、怪我明けのの開幕6戦目から先発出場を続けている。
しかしながら、カリウスもまたハイボールへの目測の誤りや不必要なミスパスから勝ち点を失いかける場面が散見され、KOP内での彼への評価が二分し始めている。尚、擁護派もミスを頻発していることは認めつつも「ロリス、デヘアのようにもう少し時間をあげよう」というスタンスなので、現状の彼に満足していないことは間違いない。
果たしてカリウスはリバプールの『守護神』になり得るのか。本記事では2つのデータソースから彼の行方を考察する。
■カリウス、ミニョレ、デヘア、チェフのスタッツ比較
Squawakaのスタッツより、上記4選手の昨年のスタッツを比較した結果が以下のテーブルだ。いずれのスタッツも、90分間の平均の数値に換算されている。
カリウス | ミニョレ | デヘア | チェフ | |
---|---|---|---|---|
セーブ数 | 86本 | 52本 | 76本 | 75本 |
セーブ数/1ゴール | 2.1本 | 1.27本 | 2.45本 | 2.68本 |
パンチ数 | 16回 | 17回 | 13回 | 19回 |
キャッチ数 | 81回 | 74回 | 85回 | 73回 |
守備面でのミス | 0.09回 | 0.18回 | 0.03回 | 0.12回 |
失点につながるミス | 0回 | 0.12回 | 0.03回 | 0.06回 |
パス成功数 | 11.88本 | 9.03回 | 8.88回 | 8.88回 |
パスの平均距離 | 40.44m | 38.41m | 42.12m | 42.76m |
パス成功率 | 58% | 62% | 57% | 62% |
セーブ、キャッチ、パス、ミス、いずれのスタッツにおいてもデヘアやチェフと比べてカリウスのスタッツに遜色はない。単純なこの数値だけを眺めると、ミニョレよりは安定感があり、パス回しを好むGKという印象で、実に計算の立つGKのように映る。
執拗なまでにダイレクトでのパス回しに参加をするカリウスの姿を見ると「足元が巧いGK」へのクロップの期待が見え隠れする。それに応えようとし過ぎてか、時に「そこは大きく蹴ってOK」という場面でも繋ぎを優先してピンチを招くシーンも少なくないが、こちらは判断の問題。足元の技術だけで述べると、マインツで2シーズンパスを通しまくってきたカリウスの実力はミニョレより上である。
また、ハイボールの処理についてだが、プレミアリーグは、他のリーグと比べてロングボールが多く、エリア内での競り合いが激しいため、「カリウスはその環境に適応ができていないだけだ」と考える人がいても驚きはない。
■クロスへの対応のプロット図
しかしながら、単純にスタッツだけを眺めるのは危険性を伴う。例えば、今シーズン少なからずカリウスはミスをしているが、同じくSquawakaで彼の4試合のスタッツを除くと、パス成功率81%、ミス率0%と算出されている。つまり、クロスの見送りや、軽率なミスパスは数値としては表面化しないことがあるのだ。
2-1でリバプールが勝利をしたWBA戦後、「ESPNのライターMike L. Goodman氏」と、「アナリストのSam Jackson氏」の間でこんなやり取りがなされていた。
Mike L. Goodman氏「カリウスはプレミア特有のボックス内での攻防に苦しんでいる。」
Sam Jackson氏「いやいや、彼はブンデスでもクロスの対応に苦しんでいた。リーグの問題ではないよ。」
@TheM_L_G he struggled in the bundesliga relative to bundesliga keepers on crosses – it’s not just a league translation issue — Sam Jackson (@Sam_Jackson94) 2016年10月22日
Sam Jackson氏は14/15シーズンのOptaのデータを元に、各リーグでのエリア内でのクロスボールへの平均対応率を算出し、その数値に対しする各GKのパフォーマンスを相対比較してている。詳しくは、以下の氏の記事内て述べられているが、結論から言うとカリウスのクロスへの対応は安定しているどころか、主要リーグのGKの中でも下から数えたほうが早いほどの低レベルであることを示唆している。
他の現地サポーターによる考察記事には、カリウスのキャッチ成功率は99%で、ミニョレのそれと比べると著しく高いことを述べているものも存在するが、「キャッチをトライして成功すること」と「キャッチすべき局面で、キャッチしに行けているかどうか」は別の問題である。
Sam Jackson氏の考察から読み解くと、カリウスのクロスへの対応はミニョレよりキャッチする回数は多いが、パンチなども含めたクロスボールに触れる回数で語るとミニョレの方が上回っている。後者の数字はあくまでクロスに触れたかどうかが基準になるため、無謀なまでにクロスへのチャレンジを見せるミニョレの数値が高いことは頷けるが。
つまり、カリウスはクロスに対してキャッチもしなければ、パンチもしないGKということになる。確かに、スワンズ戦、WBA戦でのクロス処理からもその様子は大いに伺えた。これまでミニョレの積極的すぎるクロスへのチャレンジにより幾度となくピンチを迎え、そして失点をしてきたリバプールだが、カリウスにゴールマウスを託した場合その逆のパターンで苦しむ可能性がある。
It’s #WorldDogDay, so I took Hugo for an extra-long walk! #mansbestfriend #dog #LK1 #Liverpool pic.twitter.com/UqlTmfYRrg
— Loris Karius (@LorisKarius) 2016年10月10日
■筆者の見解
クロップ陣営が連れてきたGKを信頼しシーズン中盤までは寛容な目で評価をしたい、というのが現時点での筆者の見解である。ミスはあれど、カリウスの素早いパス回しと正確なミドルパスはクロップの戦術に欠かせない。一方で、クロスへの対応には不安が残る。上記の傾向を折り込み済みで獲得してきたのであれば問題ないのだが。
ひとまず、暫くは様子を見てみよう。