後半49分、4試合ぶりに出場したダニエル・スタリッジが中央へ切り込んで左足を振り抜く。イレギュラーな弾道のシュートは右ポストに当たって中央にボールが溢れ、ピッチ内で一番足が速いであろうセネガル人アタッカーが、一番早くボールを触って先制。スタリッジは以前のマージーサイドダービーでも途中出場からのファーストプレーで得点をしている。「違いを作れる」ということを改めて証明した。
ゴールできる確率を高めるのであれば、チャンスの数を増やすしかない。マネのゴールを幸運と呼ぶこともできるが、エバートンの2倍以上の好機を作り、エリア内で24本のパスを通したリバプールの勝利は妥当だったと言える。とはいえ、立ち上がりはリバプールが劣勢だったのは明らか。試合の勝敗を分けたのは「ポジションチェンジ」「サイドでの起点作り」の2つの要素である。
◼︎ポジションチェンジ
リバプールの組み立てはヘンダーソンから始まる。CBはヘンダーソンにボールを預け、彼が指揮者の様に左右上下にボールを散らしてリズムを作る。マティプが出場している場合、彼の持ち出しや縦パスが攻撃のスイッチになることもあるが、この試合は怪我で欠場。前節から負傷離脱していたので、マティプがスカッドに入らないことをクーマンは知っていた可能性が高い。また、ルカクにルーカスをぶつけることは避けるだろうという読みもあったはずだ。
上記の前提があり、エバートンはプレミアリーグで唯一1000本以上のパスを通しているヘンダーソンにマンマーク気味でバークリーをつけ、CBからボールを受けづらい状況をつくる。他方、ロブレンとクラバン、特にロブレンには自由にボールを持たせる。彼らをフリーにしたからといってピンチを招くリスクは少ないどころかカウンターのチャンスも得られる。CBにボールを運ばせることで作られる両脇のスペースは攻撃時に活用できるためである。実際にSTATS ZONEによると前半のロブレンのパス数は合計49本。試合平均と比べると13本も多いペースということからもクーマンの策略が伺える。
開始早々はエバートンのこの策がハマり、リバプールはポゼッションできない時間が続く。STATS ZONEによるとロブレンとヘンダーソンは前半30分までに、それぞれ7本、4本のミスパスをしている。自由に困るロブレンと厳しいプレスに指揮を取れないヘンダーソン。クラバンがルカクとの対峙に勝ち続けていなければゴールに迫られていた可能性が高い。(リバプールは2人のCBを連れてきたことで相当な勝点を稼いでいる。)
<前半30分までの試合展開図>
暫く続いた押され気味な展開を打開したのはやはりヘンダーソン。指示があったのか自身で判断をしたのか、前半30分過ぎからサイドに流れる、自陣に深く戻るなど味方を生かすプレーを選択。ついていくバークリー。空いたスペースでジニ、マネ、ララーナが受ける。中でもやはりジニの位置取りの修正は的確。ヘンダーソンがバークリーを引っ張っている分、中央での余裕ができボールが回り始めたところで前半終了。ヘンダーソンが囮の動きに徹することで多少の攻撃ができただけでなく、エバートンに主導権を握らせ続けずに済んだ前半。30分以降はロブレンのミスパスも1本に収まっている。一方で、中盤がサポートに降りてくることでオリギが孤立。ウィリアムズを背負って中央で時間を稼げるだけの力量もなく効果的な攻撃には至らなかった。これではカウンタープレスも決まらない。