リヴァプールの工夫を撃ち抜いたジャギエルカ砲〜マージーサイドの雑感〜

リヴァプールは自陣に引き下がるエバートンに対して効果的な揺さぶりをかけ続けた。その結果チャンス数17回とエバートンの9回を上回りホームで勝ちきるには十分な戦いをしたが、終了間際にまさかのジャギエルカ砲を喰らいドロー。ホームのレッズにとってはなんとも勿体無い試合であった。対するエバートンもまた堅実な策で粘り強く戦った。そのご褒美としてアウェイでの勝点1は悪くない結果だろう。

image

【リヴァプール目線】
スタリッジが負傷中のリヴァプールはバロテッリを前線中央に固定し、ララーナがその周辺を走り回る形で攻撃を組み立てる。エースが不在の中で、少々強引ではあるが何でもやってくれるバロテッリに上記の役割を託すのは妥当な策である。フリーマンの役割を担ったララーナはバロテッリの手前を左右に動き回り、時にはボランチの位置まで下がってヘンダーソンとのポジションチェンジを行い効果的な動きを見せた。ボリーニにはできないが彼には容易い仕事だ。

加えて、リヴァプールはDF〜MF間でのパス回しにも一工夫した。具体的には下記のような組み立てスタイルだ。

(1) CBがボールを持つと、ジェラードを囮のように使いヘンダーソンがCBとパス交換を行う。この時ジェラードはボールを受けてもシンプルにはたく。
(2) ボールが前線に渡るとヘンダーソンはバイタル付近まで駆け上がり最前線の攻撃に参加。
(3)ジェラードはヘンダーソン空けたスペースに漂い2.5列目から攻撃参加。

image
(普段のジェラードの役割をこなしつつ前線へと駆け上がる鉄人ヘンダーソンが受けたパスの図 from STATS ZONE)

この工夫がリヴァプールのパス回しを加速させ、24本のクロスを上げ、バイタル付近で5回のFKを獲得し、17回のチャンスを作り、11本のエリア内でのシュートを打つに至った。しかしながら、スタリッジ含む2人のFWがリズミカルにポジションを入れ替えて攻め立てる時の躍動感はなく、FWの層の”薄さ”は残りのシーズンレッズを悩ませ続けるかもしれない、と感じた次第。

【エバートン目線】
対するエバートンは中央を固めてのカウンター狙い。リヴァプールの素早いアタッカー陣に裏のスペースを使わせたくなかったのだ。レッズの攻撃陣がファイナル3rdに入るまではコースを絞りつつも奪いにはいかず攻撃を遅らせることを優先した。この堅実な策が功を奏し、得点に直結する裏の取られ方は殆どされずに済んだ。しかしながら、中央後方に重心を置きすぎたことで、スターリングを中心とした右サイドからの崩しに手を焼いた。救いだったのはスターリングが代表選、CL、リーグ、そして120分戦った直近のCOCで出ずっぱりの中このダービーに臨んでいたこと。彼らしくないトラップの乱れや、軽率なボールロストが何度かエバートンの守備を助けていた。そしてもう一つ、逆サイドのスペースから攻撃に参加するのが、あらゆる面で荒削りなマルコビッチであった点も失点の確率を軽減させた。

エバートンの攻撃はルカク頼みのロングカウンターが基軸。ルカクは右サイドを中心に50本ものパスを受け何度か起点になったが、ファイナル3rdでのパス成功率は50%とリヴァプールの強靭なCBに苦しむ結果となった。守備に追われた2列目の押し上げの遅さもあり、エバートンの攻撃回数は限定的であった。

【総括】
総合的に観ると、工夫を凝らしたリヴァプールの1-0勝利が妥当であった。しかし、それを打ち砕いた後半46分のジャギエルカ砲。「サッカーの勝敗の50%は偶然である」と統計学が語るように、すべきことをしても勝てない時もある。このダービーのような試みを続ければリヴァプールは4位以内に滑り込めるはずだ。(※スターリング、バロテッリ、復帰後スタリッジのいずれかが長期離脱した場合を除く。)

ベルギーの逆転から読む「引いた相手の崩し方」

ブレンダン・ロジャーズは「リアクションサッカー」を仕込めるか~密集守備にはまった戦術ミスを読み解く~