■とにかくたくさん走ったレッズ
グロスクロイツ「クロップは身体を張って戦う事を求め、それを守れない選手はチームから出されることになる。チーム全体で1試合120km走ることが求められる。」
彼がこう言う通り、クロップのサッカーはやはり”走力”が基本となるようだ。
Optaの統計によるとリヴァプールはスパーズより50回以上多くのスプリントをし、今季スパーズより長い距離を走った最初のチームになった。それでも監督が最低水準に設定する120kmには及ばず。これまでチームで一番走っているジェイムズ・ミルナ-は今季最も”走れなかった”ストーク戦でも12km以上の走行距離を保っているが、監督の水準を満たすためには計算上フィールドプレイヤー全員がミルナ-になる必要がある。
他にもララーナ、ヘンダーソンとハードワークする選手が多いだけにクロップとしては自身のスタイルの基盤を浸透させるには悪くないメンバーかもしれない。
■走力は他のスタッツにどう響いたのか
では、上述の走力の向上はスタッツを変化させたのだろうか。下記が1516季のロジャーズ体制のスタッツとクロップ初陣の比較である。
ロジャーズ(8試合) | クロップ(前半20分) | クロップ(前半21分~後半45分) | |
---|---|---|---|
チャンス数 | 13回 | 13.5回 | 7.7回 |
パス数 | 472本 | 428本 | 438本 |
パス精度 | 82% | 85% | 73% |
縦パス比率 | 56% | 55% | 51% |
被ファール数 | 9.4回 | 4.5回 | 18回 |
ファール数 | 17.1回 | 18回 | 9回 |
ドリブル成功率 | 55% | 50% | 69% |
タックル成功率 | 42% | 0% | 50% |
インターセプト数 | 18回 | 0回 | 12.8回 |
被チャンス数 | 0回 | 13回 |
(各スタッツはSquawka、STATSZONEを参照させて頂きました。)
※一試合換算の数値
試合序盤は強烈なプレッシャーによりスパーズ陣をバタつかせ、前半20分だけを切り取ると両チームのボールタッチの39%はレッズ側から見たアタッキングサードで行われたというデータもある。しかしながらチャンス数に目を向けると、前8試合と大きく変わらず1試合換算で13.5回。他のスタッツを見てもお世辞にも改善されたとは言いがたい。
確かに、高い位置でボールを奪う、もしくは強引に前方へドリブルを仕掛け、引っかかりながらも2列目の押上により前へ進む推進力は見受けられた。しかし、それらが数多くの得点チャンスを生み出したわけではない。「とにかく早く前へ進む」そんな大きな絵は描けていても、ゴールへボールを運ぶための細やかな連動は見られず。レッズイレブンが演じた”ヘビーメタル”は余りに荒かった。
前半20分以降、一部の選手の足が止まったことの影響かチャンス数は激減している。またスパーズの決定機の増加も著しい。コウチーニョやララーナが単独で猛烈なプレッシャーをかける場面は見られたが、後方が続かず容易くかわされる、またルーカスが不用意にアプローチをかけ中盤に誰もいなくなる場面も見受けられた。走行距離を見るとチーム全体では後半も粘り強く走ったことが伺えるが、頭脳の伴わない走力は自らを消耗させるだけである。
勝点を拾えたのは幸運だったかもしれない。
それでもクロップは試合後に「このチームでやっていける」と口にした。多くのレッズサポーターはポジティブな印象を持っているのではないだろうか。それは”いつもよりたくさん走った”という極めてわかりやすい変化がクロップスタイルの始まりを匂わせたからであろう。
森から来た”普通の人”は走力を順位に変え、リヴァプールに物語を残せるだろうか。期待を抱かずにはいられない。