サッカーの「ピンチ数」に関係のあるスタッツを調べてみた。

サッカーの試合に勝つために失点を少なくすることが、時に得点をすることよりも重要であることをこれまでの実例と統計学が論じている。攻撃は個人の能力に依存する点が多いが、守備は組織の熟練によって向上させられる可能性を多く含んでいることから、サッカーの醍醐味は守備であると語られることもしばしば。モウリーニョやシメオネは守備戦術をチームに浸透させることで結果を残した代表例である。

では、失点を少なくするためにはどうすれば良いのだろうか。筆者はSTATS ZONEのリヴァプールが2015/16シーズンの前半戦19試合のスタッツを元に失点数と主要スタッツの関係性を調べてみた。
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失点数とスタッツの関係

上記が各スタッツを並べた表だが、結論から述べると失点数と最も関係性が強いのは「ピンチ数」である。「ピンチ数」と「失点数」には極めて強い関係性があるわけではないが、一定の相関関係は見られた。(相関係数-0.45)。サッカーの試合での勝利の半分は「幸運」によるものだと“サッカーデータ革命”により示されているが、ピンチ数と失点数が無関係なはずはない。まあ、ありまえの結果である。

では、どうすれば「ピンチ数」を減らせるのか?こちらも結論から述べると「ボール支配率」と「被ボール奪取数(ボールを奪われた数)」が最も「ピンチ数」と関連性のある2つである。つまり、“できるだけボールを保持し、できるだけ相手にボールを奪われないこと”が重要なのだ。

下記の座標はこれら3スタッツの関係性を示している。座標の上に行くほど「ピンチ数」が多く、座標が左に行くほど「ボール支配率」が高い。バブルが大きいほど「被ボール奪取数」が多い。バブルの色は「被ボール奪取数」60回以上は赤、50~59回が青、49回以下を水色としている。

失点数とスタッツの関係①

座標は上述の法則を可視化している。具体例を上げると左上のアーセナル戦はボール保持率が低く、たくさんボールを奪われているのでピンチが多い。右下のワトフォード戦、ウエストブロム戦などはボール保持率が高く、ボールを奪われる回数が少ないのでピンチも少ない。

では、上記の法則さえ守っていれば「ピンチ数」が少なくなるのだろうかと言うとそんなことはない。座標には2パターンの例外がある。

失点数とスタッツの関係②

ボール保持率は高く、ボールを奪われる回数が少ない一方でピンチ数が多いのがボーンマス戦。

ボール保持率は低く、ボールを奪われる回数が多いがピンチ数は少ないのが左下のチェルシー戦とユナイテッド戦。

この3試合の各スタッツを取り出すとある特徴が見られた。

13回ものピンチを招いたボーンマス戦ではボールリカバリー数が少なく、タックルの成功率が低い。一方でピンチ数が6回以下に収まっているチェルシー戦とユナイテッド戦は上記のスタッツにおいて反対の傾向が見られる。

失点数とスタッツの関係③

上記のスタッツから、相手にボールを奪われ、長くボール保持される試合であっても、相手の攻撃を迎え撃つことのできる戦い方さえできればピンチ数を減らすことが可能という仮説が立つ。逆も然りである。

ボーンマス戦、リヴァプールは自らの方が力関係で優位であると見込み、前掛かりな試合を仕掛けた。両サイドバックはできるだけ高いポジション取りをし、ボランチが攻撃参加を意識するなど積極的な姿勢を見せる一方で、このような戦い方はカウンターを受けた際のリカバリーが効かなくなるリスクを孕む。

反対にユナイテッド戦とチェルシー戦は相手の力量を見極め、不用意な攻撃参加を避け、手数の少ない攻めに終始。その堅実な戦い方によりボールリカバリーとタックルの面で高い数値を残し、結果としてピンチ数を減らすことに成功したというのが筆者の考察である。

クロップの台頭以降、「ゲーゲンプレス」という言葉が一般化され、ボールを奪ってからの速攻の有効性について語られることが増えたが、そのような速攻を含む、相手の攻撃の芽を摘むための準備を怠らないことが、格下に負けない、格上に勝つための鍵となるはずだ。

サッカーを彩る攻撃の裏側にある守備面でのリスク。時にはそんな部分に目を向けて、サッカーを愉しんでみてはいかがだろうか。