■クロップリバプールの可能性
結論から述べると、筆者はクロップリバプールが完成に近づく2〜3年後に大きな可能性を感じずにはいられない。
前述の通りクロップが好むゲーゲンプレスはショートカウンターの機会を得られる可能性が高い一方で走力と連動が欠けていると数的不利な状態で攻められるリスクを背負うこととなる。クロップが「成熟された選手が揃う布陣で勝つ」よりも「自らの手で育てた選手を率いてチームとして強豪チームを破る」ことを美学とする監督であることが、彼がこのモデルを好む理由なのだろう。彼が率いるドルトムントの最盛期はレアルマドリーすら粉砕した。
ゲーゲンプレスがハマるとアーセナルやチェルシーを粉砕したり、普段が勝ちきれないことも多いハルやワトフォードなど格下のチームが手も足も出ない試合をしたり、熱狂的な試合運びをすることが可能なことはリバプールでも既にこれまでの試合で証明されている。クロップが「ベストゲーム」と称したハル戦は特に気持ちいほどゲーゲンプレスが決まり圧勝した。
一方で、体力消耗が激しいこの戦術で戦い続けることでシーズン中盤には既に疲労の色が見え、また、試合によってはリスクをヘッジしきれていない場面も多く失点数はかさんでいる。特に、どうしても点が欲しくスタリッジやオリギを同時投入した際にゲーゲンプレスの穴を突かれることが多い。2-3で破れたスワンズ戦では前線のプレッシャーの緩みから、プレッシャーをかけようとポジションを上げた後続5選手を置き去りにするパスを通され3点目を奪われた。また、対戦相手の研究が進み、ウエストハムの様なロングボールでプレッシャーを無効化し泥沼の展開に持ち込むチームも増えてくるだろう。(指揮官は上記の課題に対して、試合によってはゲーゲンプレスのモデルを変えながら対策をしている。)
クロップは1617シーズン前に「自分のリバプールが出来上がった」と述べていたが、上記の様に課題は山積みだ。コウチーニョ、マネ、フィルミーノ、ララーナ、マティプが揃うと素晴らしい試合ができるのだろうが実際はそうはいかない。
それでも筆者がクロップリバプールに強い期待を抱いているのは、ゲーゲンプレスを戦術の軸としたクロップのプロジェクトに選手が共感をし、日に日にに適応し始めているからである。波はあれど、試合ごとに着実に完成度を増す連携はサポーターだけではなく選手にも熱い未来を感じさせている。バルセロナにでも行くことができたコウチーニョのバイアウト条項を含まない5年契約の締結もその表れだろう。
「主力が出て行ってしまうチームはもう嫌だ」と言いながらリバプールにやってきたクロップは1シーズン目にして一定以上の成果を出し、図太い幹を作りつつある。補強が必要なことも明らかだが、中長期に渡ってクロップリバプールを満喫する一つの方法として、上述のゲーゲンプレスについての記述を参考にしていただきながら、クロップが目指すゲーゲンプレスのモデルがどこまで理想に近づいているのかを観察するという観戦方法を推奨したい。悲観的な試合結果であっても、些細な連携の中にクロップが描く未来への希望が見えてくるかもしれない。